サテンドール魅力の秘密
ジャズレストラン六本木サテンドールオーナー井上社長

Vol. 38  ボーカルにとって大切な集客法②

「プロが教えるジャズヴォーカル読本」/井上修一著(完売しております)から「集客とお客様のケア」の項から、簡略化してわかりやすくお伝えします。

その次には、いつも集客がいいミュージシャン、ヴォーカリストから、そのノウハウを語っていただきます。

1 ライヴの告知方法

マレーネ

「スケジュールハガキの送付、メールによるスケジュールのご案内をしています。たとえどんなに忙しくても、ハガキの宛名書きは手書きで、一言メッセージも必ず添えます。メールも一斉送信はせず、ひとりひとりに異なるコメントをつけて送ります。SNSは宣伝材料として毎日欠かさず更新。」

ちほわたなべ

「フライヤーを業者に委託して制作します。それをDMにてお客様に郵送します。置いてもOKなお店には置いていただきます。また、メールでライヴの案内をします。自身のホームページで大きく扱ったり、またフェイスブックでも案内します」

吉本ひとみ

「月々のスケジュールを作って、HPやmixi、フェイスブックにアップしたり、メールで送ります。DMは送れる月や、おすすめのスポットで送ったりします。

大きなライヴはフライヤーを郵送、月30通ぐらいですが、手紙をつけます。

それぞれに合ったご連絡をします。これで、6~7割の参加が実現できています」

 

びっくりしたのは、DMを活用している人がけっこいることでした。そして、DMが最も効果的、という意見まで出ていることです。DMというのは、ハガキやフライヤーなどを作って郵送することですよね。

今はみんな、日常の連絡もネットのSNSやメールで済ませる人が多いですが、郵便物などはそれなりの手間がかかりますし、お金もかかります。もらうとやはりうれしいものなのでしょう。手紙離れと言われる時代、自分宛の郵便が届いて、そこに手書きのメッセージがそえてあったりすると、温かみがありますね。行こうという気持ちになりやすいかもしれません。

一方、別の方法に変えた人もいるようですね。効果のある方法は人によって違うということなのでしょうか。

藤田佐奈恵

「DM、一斉メールはやめました。あまりに返りが少ないです。ブログ、フェイスブックなどは効果があり、初めての方や、何年もいらっしゃらなかった方がひょっこりいらっしゃることもあります。でもやはり、ライヴ会場で知り合った方を大切にすることがいちばんだと思いました」

千景

「最近はSNSがとても便利です。フェイスブックなどで広告や宣伝したり、イベント招待して、面識のない方も来ていただけるようになりました。あとはまめに連絡をし、コミュニケーションをとるようにしています。ライヴの前日には確認メールを送る、その後も、お礼メールなどを送って感謝の気持ちを伝えます。また、フライヤーはまめに印刷に出して、スケジュールを載せるようにしています」

ランデル洋子

「メール、ブログ、フェイスブック、電話などでほとんどお知らせします。時々、ポスターやフライヤーなどを、イベントに応じて作ります」

麻生ミツキータ光希

「フライヤー、メール、フェイスブック、ツイッターにて活動の宣伝を行っています」

佐藤由佳

「フェイスブックは利用しますが、やはりそれぞれに合った内容のメールをお送りするのが一番よいようです」

飯田久美子

「フェイスブックは使っていますが、やはりリアルで存じ上げない方はなかなか難しいです。それよりも、日常の人脈作りが大事だと実感しています。ふだんの生活の中での信頼関係のお客様を大切に。特にホールリサイタルは、数百人の集客のため、地元千葉にはファンクラブのような実行委員会を立ち上げています」

 

たとえば文章で気持ちを伝えるのが得意な人はメールなどでいいのでしょうし、ポイントをPRするのが上手な人は、ネット活用で効果が上がる、また人と話すのがうまい人や気軽に電話できる信頼関係を持っている人なら電話。それは相手の仕事の忙しさや事情などにもよるでしょう。

大切なのは相手の事情を思いやり、コミュニケーションを深めていくことなのではないかと思います。一斉メールはせず、それぞれに合った内容のメールを送ることなどはまさにそうですね。常に相手のことを考え、思いやりをもって接すること。さすがに経験の長い人は、そのあたりをよく考えているようです。

有桂

「DMは要請のあった方以外は出しません。フライヤーは人の集まる場所用に作成しています。メールも、かなりよく知った方に、急ぎの場合はお送りしますが、一斉送信はなるべくしないようにしています。そのかわり、フェイスブックでイベントを立ち上げたり、個人の記事に載せています」

海老原しのぶ

「DMは毎回100枚以上配布していますが、生徒に強制はできません。学校や職場のつながりのない関東圏では、いつも苦戦しています。家族や友人、知人に足を運んでもらえるのはとても嬉しいですが、その中でばかり拍手喝采を浴びることに慣れてしまってはいけないと思うんです。たとえば、たまたまお立ち寄りいただいたお客様や、外国人旅行者、子供さんの前でも、一期一会のステージに心を込めて歌うことがプロだと肝に銘じています。見知らぬ方から『ありがとう。楽しかった。来てよかった』と声をかけていただいたときは、最高に嬉しいです」

 

人それぞれ、様々な事情があって、スタンスもいろいろです。でもひとつだけ言えるのは、プロは皆プロの誇りを持って、考え、行動していること。そして、お客様によりいい時間を過ごしていただくために、自分自身のかぎられた時間をやりくりして毎日を過ごしているということです。毎日、お客様の貴重なお時間をいただいてるぼくとしても、とても勉強になりました。

2 お客様への心遣いとして実行していること

お客様対応について、まず全員が口をそろえて言ってくれたのは、「ライヴに来てくださったら、必ずお礼の連絡をする」ということでした。方法はメールであったり電話であったりハガキであったり人それですが、できれば翌日にすぐ連絡をする、という人が大半です。

 マレーネ

「『ひとりひとり心をこめて』それに尽きます。『大勢の中のひとりのお客様』ではなく、ひとりひとりを特別な存在として対応します。お店に来てくださった自分のお客様全員とまんべんなく分け隔てなくお話するようにしています。また、雑談で話した小さな話題も、なんとかひとつでも心に留めておいて次にお逢いしたときの会話に用いると、リピーターになってくださる確率が上がると思います。あとたとえば『体調が悪い』とおっしゃっていたお客様には後日、『その後どうですか』とフォローメールを送ります。毎回スケジュール案内のメールだけでなく、何回かに一回は営業と関係のないメールを送る。また共通の趣味があるお客様なら、恋愛感情がある、と誤解されない程度に時にはお付き合いする。基本的にライヴの勧誘はしつこくせず、お客様の自主性に任せる。ファンの方を集めた親睦会を定期開催し、心の交流を図って、根強いファンの獲得につなげます」

 藤田佐奈恵

「皆がハッピーでいられるように心配りを忘れないことを心がけています(できないことのほうが多いのですが)。時には親睦会のようなものも開きます」

 千景

「お客様のお誕生日は必ずチェックしてお祝いします。ライヴに来てくださったら、バースデーソングを歌って、バースデーケーキをプレゼントしたり」

 ランデル洋子

「お客様の情報をできるだけ頭にいれて、そのお客様とお話をするときに話題にする。毎回、来てくださったお客様の名前と衣装、歌った曲、ミュージシャン名を記録して、前回とだぶらないように気をつける。お呼びするお客様の組合せを考える」

 麻生ミツキータ光希

「長年応援くださっているお客様も多いのですが、親しく交流させていただく中にも一定の距離感を保ち、尊敬の意識をもって接するように努めています」

 ちほわたなべ

「リピーターで何度もいらしてくださっているお客様には、お礼としての夏と冬の年2回贈り物をします。4回に1回は、チャージ無料で招待します」

 佐藤由佳

「お客様=大切な友人と思っています」

 吉本ひとみ

「団体やグループの方は、リーダーなどそれぞれ役割があるので、皆さんの立場を把握しながら接します。私は今、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、奈良、和歌山、神戸、福岡、門司、と活動の場を広げていて、大変な数のお客様と接しています。でも私がインフォメーションしている以上、私の歌を聴きに応援に来てくださっているので、人と人とのお付き合い、交流を大切にしていければと思います」

お客様への心遣いは、実に人それぞれですね。逆にいえば、その接し方に個性が出るし、人柄も現れます。お客様は、ヴォーカリストの歌はもちろんですが、そういった人との接し方などに魅力を感じて、ファンになって下さるのでしょう。

 ぜひ参考にヴォーカリストとファンである前に、人と人との付き合いであることを肝に銘じて自分なりの接し方を見つけてほしいものだと思います。

 知り合いではないお客様から、「この人のライヴは知り合いしか来ないのか」と思われて、一般のお客様がつかなくなる、などとも書かれていました。つまり、メジャーになってよりたくさんのファンを獲得するためには、ひとりひとりのお客様と親しく接しすぎないほうがよい、ということなのだと思います。

 知り合いのお客様に来ていただいた喜びを伝えることも大事ですが、そのお客様以外の方への配慮も必要だからです。

 歌を歌って聴いてもらうということは、やはり人と人との繋がりであり、人から人へと伝えるものだとぼくは思います。人と人との縁を大切にして、誠意をつくした対応をしていくことは、そのためにも大切ではないかと思うのです。

 

3 気をつけていること、トラブル対処など

 「お誘いメールはあまりしつこくならないように。それぞれのお客様の好きなお店、または気に入って下さりそうなライヴしか案内しないようにしています」

 「仲良くなりすぎも気をつけます。色気を目当てにしてくる方には毅然とした態度をとります」

 「異性として誤解をまねくような行動をしないように心がけています。それでも、異性として意識されたり、お誘いを受けたりして、ストレスを感じるときは、言葉やメールで柔らかく断り、行かないようにします。断り方の内容もむずかしいですが…」

 「あまりにしつこいと友達をなくすので気をつけています」

 「お呼びしたお客様同士は、仲良くなれるときと、あとあといろいろ出てくるときがあるので、できるだけ接点を持たれなくてすむように、席なども配慮します」

 今ではヴォーカリストは名刺には住所や電話番号を載せず、ホームページのアドレスやメールアドレスだけにしておくのが常識になりました。お客様が何度かライヴに来て下さり、どういう方かわかって、気心が知れてくるまでは個人情報を明かさないのです。

 自分の方からは原因を作らないように、人を見る目を養い、その相手とどう付き合うか、きちんと考えて行動していただきたいものだと思います。

 

4 他のヴォーカリストのお客様への対応

 ヴォーカルライヴにはヴォーカリストがひとりで出演するソロライヴのほかに、サテンドールでいえば『ヴォーカルナイト』など、複数のヴォーカリストが出演するライヴがあります。そういったライヴを開催してきて、マナーとして気になっていることがあります。それは、自分がお呼びしたお客様と、他のヴォーカリストがお呼びしたお客様への対応です。中には対応を間違えてトラブルになるケースもあります。

 藤田佐奈恵

「ほかのシンガーのお客様との距離感には気をつけます。お客様とそれぞれのシンガーは何らかのご縁でつながっているものと思うので、そのご縁の輪を大事にすべきだと思うのです。よほどお客様から『名刺をください』などと言われない限り、私の方からはご挨拶程度にとどめます」

 佐藤由佳

「共演者のお客様、お店の常連様などは、名刺を基本許可なしで渡さないなど、気をつけています」

 ちほわたなべ

「ヴォーカリスト同士、またその周辺のお客様とも接する機会が多いため、関係がややこしくならないように気をつけます」

 有桂

「ほかのヴォーカリストのお客様や知り合いには、知り合って短い場合にはあまり積極的にはお声をかけません。ある程度の期間を置いて、自然にご挨拶ができるようになってからのほうが失礼がないと思います。適度な距離感は必要です」

  

たとえば、集客に苦戦しているとき、ヴォーカリスト同士で応援しあうこともあります。ある人は「あなたのライヴに行くから、今度私のライヴに来て」と頼まれて行ったのですが、自分のライヴを案内したところ、直前になって急に仕事が入ったとか、何やかやと理由をつけて、結局一度も来てくれなかったというのです。

 他のヴォーカリストのお客様に、むやみに自分のライヴの宣伝をしたり、CDを持って売りに歩く人もよく見かけます。本人としては、集客や売上に一生懸命になるあまりとった行動だと思いますが、ご挨拶してもいいか、ご案内をしてもいいか、お客様をお呼びしたヴォーカリストに一言断ってからするのが礼儀ではないでしょうか。

 配慮のない人は何度でもそういうことをするし、配慮のある方はされても笑顔で許したりします。それが人柄というものです。ですからぼくは、ミュージシャンであれ、ヴォーカリストであれ、人柄のいい人に出演してほしいし、人間性を疑うような人には次第に出演依頼をしなくなります。この人はもう切ろう、と決心したことも何度もあります。いくらたくさんお客様を呼べる人でもサテンドールには出演してほしくありません。そういう人がいると、共演者がいやな思いをするだけでなく、お客様にご迷惑をおかけしてしまうからです。

 また逆に配慮がすぎて、自分がお呼びしたのではないお客様には、ご挨拶も省略する人がいますが、それはどうかとぼくは思います。誰が呼んだお客様であれ、ライヴに足を運んで歌を聴いてくださったことには変わりありません。お礼や感謝の気持ちは誠意をもって伝えてほしいと思います。ステージに立つ以上、目の前の方はすべてお客様なのです。

 「その日は別の人に誘われて来たので、この人の集客にはカウントされないはずなんだけど、帰るときにものすごく気持ちのいい笑顔で『きょうはありがとうございました』と言ってくれ、とてもいい気分で帰ることができた。それを機会に、この人のライヴがある日にはお店に足を運ぶようになった」